第20回疫学セミナー

教科書で基本を学び、最新のNEJM論文を読み解く

ランダム化の不自然を指摘された後、撤回され再掲載されたNEJM論文 / ランダム化比較対照試験 / 素朴な質問

 

ごあいさつ

 
前回の第19回セミナーでは、研究デザインの総論を解説しました。今回からしばらく、個別の研究デザインの概要を説明し、ケーススタディとしてNEJM論文を取り上げます。今回は、ランダム化比較対照試験を取り上げます。
 
ケーススタディとして取り上げるのは、次のようにきわめてユニークな経過をたどった論文です。
・NEJMに論文掲載(2013年)
→他の研究者がランダム化の不自然さを指摘(2017年)
→当初の論文を撤回すると同時に、修正された論文がNEJMに再掲載(2018年)
 
1 『地中海食による心血管疾患の一次予防』(NEJM 2013年4月4日号・リンクは日本語要旨)
・通常食群(対照群)と比べて、2つの地中海食群で、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクが低かった。
 
2 1を含む5,087件のランダム化比較対照試験の論文を対象に、介入群と対照群のベースライン特性(平均年齢など)が、不自然に偏っている頻度を調べた論文(Anaesthesia 2017年8月号)
 
3 2の指摘を受けて、NEJM編集部が1の著者らに調査した経緯と、1の論文を著者が撤回し、修正した論文を再掲載したことを述べた記事(NEJM 2018年6月21日号)
NEJM編集部の照会に対して、1の論の著者らは以下の点などを明らかにしました。
・対象者全員を、当初のプロトコル(研究研究計画書)どおりに、個人レベルでランダム化していなかった。
・具体的には、対象者の1人が一つのグループに割り付けられたら、同居家族も同じグループに割り付けた。この変更を、1の論文では記述しなかった。
・また、一部の地域では、個人ではなく診療所(患者集団)をランダム化した。
 
4 『エクストラバージンオリーブオイルまたはナッツを加えた地中海食による心血管疾患の一次予防』(NEJM 2018年6月21日号・リンクは日本語要旨)
・3の不備を明記し、再解析を行った論文。基本的な結果は1と変わらず。
 
ランダム化についてのプロトコル違反は、研究デザインの本質に関わる重大な問題です。プロトコル違反が明らかになった時点で、論文は撤回され、著者らは研究不正の烙印を押されて終わり、というのが通常のパターンです。
 
ところがNEJM編集部は、この通常のパターンを取りませんでした。著者らにプロトコル違反の部分を明記させ、修正と再解析をさせた上で、4の論文を再掲載したのです。「誤りを責めて終わり」ではなく、誤りを明記・修正させて再掲載することで、著者と編集部だけではなく、読者も「誤りから学ぶ」ことの重要性を示したともいえるでしょう。この一連の経緯から、学べることがたくさんあります。セミナーで分かりやすく説明します。
 
第17回より始めた、「坪野先生への素朴な質問コーナー」も、引き続きご質問をお受けします。
 
疫学の基本を、初心者として学びたい方。あらためて系統的に学びなおしたい方。ご参加をお待ちしています。
 
坪野吉孝(セミナー講師)
 
開催日時:2023年11月25日(土)13:00 - 14:15 開催形式:ズームまたは放送プラットホーム「シラス」経由の、ライブ配信とオンデマンド視聴 講  師:坪野吉孝(東北大学大学院客員教授)(略歴は下記)
 
 
(参加費) ズーム経由 私費参加 税込2,200円 公費参加(研究費・経費等) 税込11,000円
シラス経由 番組単体 税込2,200円 月額購読 税込5,500円

(お申し込み) ズーム経由申込: https://bit.ly/3FHyP7l シラス経由申込: https://bit.ly/40pg3eL
 
申込締切:2023年11月25日(土)13:00
(使用する教科書と今回の該当箇所)
『疫学―新型コロナ論文で学ぶ基礎と応用』(坪野吉孝、勁草書房、2021)
「第I部基礎編 9ランダム化比較対照試験 p37-49」
 
 
(講師略歴) 医師・博士(医学)。1989 年東北大学医学部卒業。国立がん研究センター、ハーバード大学公衆衛生大学院などを経て、 2004 年東北大学大学院教授(医学系研究科臨床疫学分野・法学研究科公共政策大学院)。 2011 年より精神科臨床医。 現在、東北大学大学院客員教授(医学系研究科微生物学分野)・早稲田大学大学院客員教授(政治学研究科)・国立がん研究センター客員研究員(予防研究部)。 筆頭著者の論文としてNEJM、JAMAなど。 NEJM日本国内版監修。
 
(その他) ・放送画像の録画や音声の録音は控えてください
Zoom経由でお申込みの場合、領収書は、支払い完了後に自動送信されるメールよりダウンロードいただけます。参加証明書は、支払い完了後に自動送信されるメールより、セミナー終了後にダウンロードいただけます
 
(事務局・問合せ) 株式会社エピデミア 疫学セミナー運営事務局